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医療メディア水戸赤十字病院の今日もおだいじに

医療や病院にまつわる"ちょっと気になる耳寄り情報"を掲載していきます。
第30回は、知久 理学療法士に「フレイル予防」についてインタビューしました。

第30回
フレイル予防について
知久 理学療法士

Q 知久さんは当院で理学療法士として勤務されていますが、理学療法について教えてください。

理学療法は、病気やけがなどにより運動機能や動作能力が低下した方に対し、運動療法や温熱などの物理療法を用いてリハビリテーションを行い、社会復帰を目指すものです。近年では、予防分野やスポーツ分野への関わりも増えており、当院でも2023年から1年間、プロバスケットボールチーム「茨城ロボッツ」へ理学療法士1名を研修として派遣しました。

Q 知久さんは普段どのような患者さまを担当されていますか。

当院では、転倒や事故によりけがをした整形外科疾患の患者さまや、脳の障害によって手足に不自由をきたした患者さま、内科や外科の治療のための入院中に体力が低下し、日常生活動作が困難になった患者さまなど、さまざまな診療科の患者さまに対してリハビリを提供しています。
日々の患者さまとの関わりの中で、入院前の体力や生活状況が、リハビリの進み方に大きく影響することを実感しています。
そこで今回は、リハビリと関係が深い「フレイル」について原因から予防法までご紹介いたします。

Q フレイルという言葉はあまり聞き慣れませんが、どのような意味なのでしょうか?

フレイルとは、病気ではありませんが、年齢とともに身体的・精神的な機能が徐々に衰え、心身が弱くなった状態をいいます。ただし、フレイルは、完全に介護が必要な状態ではなく、生活習慣の改善や適切な治療を行うことで、以前の状態に回復できる可能性があります。
つまり、フレイルは「健康」と「要介護」の中間にあたる状態です。

Q フレイルを引き起こす原因には、どのようなものがあるのでしょうか?

原因は、“身体”、“心”、“社会性”の3つに分けられます。
まず、身体的な原因としては、骨・関節・筋肉など運動機能に関わる器官の衰えが挙げられます。歩行や立ち座りなど、日常生活に必要な動作が難しくなることがあります。
心の原因としては、加齢に伴う認知機能の低下や抑うつ傾向などが挙げられます。家事や買い物など、さまざまな場面で適切な判断や行動がしにくくなることが問題となります。
社会性の原因としては、引きこもりや一人での食事が続くなど、社会的なつながりが減り、孤立しやすくなることが挙げられます。

Q 自分で行えるフレイルのチェック方法はありますか?

日本でよく用いられるフレイル評価基準は次の身体的5項目です。
ぜひフレイルチェックをしてみてください。

  1. 半年間に2~3㎏以上の体重減少があった
  2. 疲れやすく、何をするのも面倒だと感じる日が週に3~4日以上ある
  3. 歩行者専用の横断歩道を青信号の間に渡り切れない
  4. 握力が低下した(男性:26㎏以下、女性:16kg以下)
  5. 運動習慣がなく軽い体操さえしていない

以上の5項目の内3つ以上が該当する場合はフレイルとされ、1~2つ該当する場合はフレイルの前段階である“プレフレイル”とされています。

Q フレイル評価基準以外にも、気を付けた方がいい症状などありますか?

評価基準には含まれませんが、次のような症状も注意が必要です。

  • 何かにつかまらないと階段を上れない
  • 何かにつかまらないと椅子から立ち上がれない
  • この1年間に転倒したことがある
  • 週に1回も外出していない
  • 日付がわからないことがある
  • 周囲から物忘れを指摘される
  • 自分が役に立っていないと感じる

こうした兆候がみられる場合は要注意です。
これらを見過ごしていると、心身の機能がさらに低下し、最終的には介護が必要な状態に陥るおそれがあります。
フレイルは進行するほど回復が難しくなるため、フレイルになりやすい要因を自分の生活と比べてみて、無理のない方法で予防を続けることが大切です。

Q  フレイルを予防するには具体的にどうようなことをすればよいのでしょうか?

まず、運動機能を維持するために、日常生活の中に無理のない範囲で運動習慣を取り入れることが大切です。
最も手軽な方法は散歩やウォーキングです。週に合計150分(1日に20分程度)が理想です。まずは、歩く時間や距離を少しずつ増やし「今より10分多く体を動かす」ことを目標にしましょう。
スポーツ施設での水中エクササイズなどの有酸素運動や、各自治体が開催する高齢者向けの体操教室に参加するのもおすすめです。
また、自宅で行える運動としては、ラジオ体操や4分の1スクワット、かかと上げなどがあります。

  • 4分の1スクワット:椅子の背もたれにつかまり、足を肩幅に開いて立ち、膝を軽く曲げて(4分の1程度)屈伸運動をします。
  • かかと上げ:椅子の背もたれにつかまって立ち、かかとをゆっくり上げ下げします。

どちらの運動も10~20回を目安に、週に2回以上続けることが効果的です。

Q 食事についても注意点などあれば教えてください。

高齢になると食が細くなり、必要な栄養素が不足しがちになります。
筋肉を作るたんぱく質は、魚・肉・卵・大豆製品などから、骨を丈夫にするカルシウムは、牛乳や乳製品から、さらにビタミンやミネラル、食物繊維は、野菜・海藻・きのこ類などからバランスよく摂ることが大切です。さまざまな栄養素を含む食事を心がけましょう。

Q 認知症や抑うつ状態を防ぐために、普段の生活で心がけておくべきことはありますか。

社会参加をうまく取り入れた生活を送ることが大切です。
趣味のサークルで新しいつながりを作ったり、地域のボランティア活動などで役割を持つことで、孤独を防ぐことができます。電話での会話など、気軽な交流でも構いません。積極的に人と関わる機会をつくり、自分に合った活動を続けることで、社会性を保つことができます。

当記事は、令和5年7月14日のLuckyFM茨城放送「水戸赤十字病院の今日もおだいじに」をもとに制作しています。