医療メディア水戸赤十字病院の今日もおだいじに
医療や病院にまつわる"ちょっと気になる耳寄り情報"を掲載していきます。
第10回は、橋本 摂食嚥下障害看護認定看護師に「高齢者の誤嚥」についてインタビューしました。
Q 高齢になると誤嚥しやすくなると聞きますが、なぜ誤嚥しやすくなるのでしょうか?
加齢により歯が抜けることで食べ物を噛み砕くことが難しくなってしまったり、筋力が低下することで、飲み込む力も弱くなり、食べるために必要な口、喉、呼吸の機能が低下し誤嚥しやすくなります。
Q 食べるために必要な口、喉、呼吸の機能が低下するというのは、具体的にどのようなことでしょうか?
まず、口の機能の低下についてお話しします。人は食べるとき、飲み込みやすいように歯で食べ物を噛み砕き、唾液とよく混ぜて軟らかく飲み込みやすい状態に変えてから飲み込んでいます。高齢になると歯が抜けやすくなるほかに、唾液の分泌が低下するといった体の変化が起こりやすくなります。そのため食べ物をよく噛み砕き飲み込みやすい状態に変えることが難しくなります。
Q 次に喉の機能の低下について教えてください。

喉には空気の通り道である気管があり、その後方に食道があります。人は呼吸をしなければ生きていくことができないため、常に気管の通り道は開いた状態です。しかし食道は、食べ物や飲み物が通過するときだけ食道の入口が開きます。同時に気管の入り口は蓋がされる仕組みになっています。気管の蓋(喉頭蓋)はどこにあるかというと喉仏の後ろにあり、ゴクンと飲み込むときに喉仏が上にあがることで気管に蓋をしています。 喉仏は喉の筋肉や靭帯で支えられた状態にあるので、筋力が低下した高齢者はしっかりと持ち上がることができなくなり、気管の蓋の間に隙間ができてしまうことで、食べ物が気管に入り誤嚥しやすくなります。
Q 呼吸の機能が低下するとありましたが、食べることと呼吸はどんな関係があるのでしょうか?
食べ物を飲み込むときは必ず息を止めて飲み込み、息を吐くところから呼吸が再開します。この飲み込んだ後に息を吐くという動作には、喉に残った水分や食べ物を息で飛ばすことで気管に入ること防ぎ、誤嚥しないようにするため防御の働きをしています。しかし、高齢になると息を止めていられる時間が短くなり、飲み込んだ後に息を吸い込んでしまい、気管に食べ物が吸い込まれて誤嚥する危険性が高くなります。ですので、飲み込んだ後は息を吐くように日頃から意識することが大切です。また食事中のむせ込みや咳払いは、気管に入った食べ物等を吐き出す防御の働きをしています。呼吸訓練として大きく息を吸い、ハッ、ハッ、ハッと咳払いをする方法を実践してもよいと思います。
Q 飲み込みに問題があるかをチェックする方法はありますか?
誤嚥のしやすさを知るために色々な質問用紙がインターネットなどで公開されています。嚥下問診票や嚥下質問紙などで検索してみてください。今回は、聖隷式嚥下質問用紙を使って、実際にチェックしてみましょう。ここ2~3年の体調を思い出しながら、質問に対して「はい」または「いいえ」でチェックしてみてください。
①肺炎と診断とされたことがありますか?
②やせてきましたか?
③飲み込みにくいと感じることがありますか?
④食事中にむせることがありますか?
⑤お茶を飲むときにむせることがありますか?
⑥食事中や食後、それ以外のときにも痰が絡むことがありますか?
⑦喉に食べ物が残る感じがすることがありますか?
⑧食べるのか遅くなりましたか?
⑨硬いものが食べにくくなりましたか?
⑩口から食べ物がこぼれることがありますか?
⑪口の中に食べ物が残ることがありますか?
⑫食べ物や酸っぱい液が胃から喉に戻ってくることがありますか?
⑬胸に食べ物が残ったり、詰まった感じがすることがありますか?
⑭夜、咳が出て寝られなかったり、目覚めることがありますか?
⑮声がかすれたり、ガラガラ声になってきましたか?
いかがでしょうか?
一つでも「はい」にチェックがついた人は、誤嚥しやすい状態にあるのかもしれません。
Q 「はい」にチェックがついた方はどうすればよいでしょうか?
誤嚥は高齢による体の変化だけではなく、認知症や脳卒中といった病気も深く関係していますので、かかりつけ医や看護師、ケアマネージャー等に相談するとよいでしょう。
Q すべて「いいえ」だった人へのアドバイスはありますか?

今は誤嚥する可能性が低い状態であっても、加齢による体の衰えは避けられません。ですので、入れ歯をお使いの方は、食べ物をよく噛めるようにピッタリと合った入れ歯を使用することや家族やご友人との会話を大切にし口の周りの筋肉や呼吸状態を良好に保つことを心がけるようにしてください。
当記事は、令和6年12月13日のLuckyFM茨城放送「水戸赤十字病院の今日もおだいじに」をもとに制作しています。