日本赤十字社 水戸赤十字病院

ドクターインタビュー

DOCTOR
INTERVIEW

泌尿器科

ロボット支援手術に
10年以上の実績、
先進的な治療で地域に貢献

水戸赤十字病院 院長

野澤 英雄

INTRODUCTION

水戸赤十字病院は、茨城県央の中核病院として高度な医療を提供し、地域住民の健康を支えています。
茨城県がん診療指定病院に認定されており、特にがん治療では外科手術や放射線療法、化学療法といった
複数の治療法を組み合わせる集学的治療を行い、先進的な治療を積極的に取り入れています。その中でも、
近年注目を集めているのが「ロボット支援手術」です。
水戸赤十字病院では、泌尿器科の野澤英雄院長を
中心にロボット支援手術を積極的に導入し、精度の高いがん治療を可能にする体制を構築してきました。

「患者さんの負担を最小限に より質の高い治療を提供したい」

その強い思いのもと、野澤院長は10年以上にわたり、ロボット支援手術に取り組んできました。
ロボット支援手術の導入から現在に至るまでの道のり、そして地域医療への熱い思いについて詳しくお話を伺いました。

治療実績をデータ化し、よりよい治療の提供へ

当院は、2013年に泌尿器科でロボット支援手術を導入し、良好な治療成績で実績を重ねてきました。前立腺がんに対するロボット支援前立腺全摘除術は、2020年から2024年には毎年50〜69例の手術を行っています。
ロボット支援手術は現在、外科で食道・胃・直腸・結腸がん、産婦人科で子宮体がんや骨盤臓器脱といった方にも適応が広がり、多くの患者さんの治療に活用されています。2013年から2025年8月末までの治療実績は、泌尿器科・外科・産婦人科を合わせて1512例になりました。当院では、手術の様子や手術件数をデータ化して、より良い治療の提供に役立てています。

傷が小さく、出血や痛みが少ないロボット支援手術

ロボット支援手術は、腹腔鏡手術と同様に体に小さな穴をいくつか開け、手術器具を固定したロボットアームを術者が操作して手術する方法です。開腹手術と比べると傷が小さく、筋肉や血管・神経などをあまり傷つけずにがんを取り出せるため出血や痛みが少なく、術後の回復も早い利点があります。

手術支援ロボットは、手術する部位の視野の拡大や手ぶれ補正といった手術を行う医師をサポートする機能があります。医師にとっては、無理な姿勢や視界を強いられることが少なくなり、疲労が軽減されるため精神的余裕も生まれ、安定した手術操作へつながります。
指導者としては、画面が共有できて教えやすいのも長所です。ロボット支援手術には、専門資格の取得とプロクター資格者による一定の指導を受ける必要があり、操作に慣れるためのトレーニングを行い手術に臨んでいます。

精度の高い診断で、ロボット支援手術の繊細な技術が生かせる

ロボット支援手術は細かい操作に向いており、病巣をできるだけ小さく取る手技に適しています。一方で、がんを大きく取らずに根治性を維持するためには、精度の高い診断が必要になります。

当院では前立腺がんに対するロボット支援手術を導入する際、同時にフュージョン生検(MRI超音波融合前立腺生検)を取り入れました。従来は、MRIで見つかった病変部をイメージしながら、超音波画像を用いて生検を行っていましたが、フュージョン生検は、ソフトウェアでMRI画像と超音波画像をリアルタイムで融合しながら生検を行えるため、より正確な診断が可能となります。2022年から保険適応となった検査方法ですが、当院ではロボット支援手術のメリットを最大限引き出すために、10年以上前から導入していました。

前立腺がんに対する治療で、ロボット支援手術を活用

私の専門である泌尿器科では主に前立腺がん・腎細胞がん・腎盂尿管がん・膀胱がんに対して、ロボット支援手術を行っています。前立腺がんでは、ステージII(一部ステージⅢ)までが根治的な治療の対象で、外科手術または放射線療法を行います。当院では、手術をする方が約6割、放射線療法をする方が約4割です。慎重な診断のもと、内科をはじめとする診療科と連携しながら、それぞれの患者さんに適した治療を選択しています。

前立腺全摘除術は、膀胱と尿道のつなぎ目にある前立腺を取る手術です。精液を作る臓器である前立腺を切除するには精嚢と精管の一部を取る必要があり、その際に膀胱と尿道がいったん切れるのでつなぎ直します。ロボットを使うと前立腺を取り出し、膀胱と尿道をつなぎ直す繊細な操作がしやすいため、特段の理由がない場合、前立腺全摘除術にはロボット支援手術が適しています。

前立腺がんの手術は、手術部位が尿の排出を調節する尿道括約筋に近いため、術後早期には尿失禁の合併症が問題となりますが、ロボット支援手術の導入により回復のスピードが速くなり、ほとんどの方は半年以内に改善するようになりました。また、前立腺がんは他の臓器のがんに比べて進行が遅く、治療法や手術の時期を患者さんとしっかり相談して決められる余裕のあるケースが多いのが特徴です。がんの進行度や状況が許せば、お仕事の繁忙期も考慮して手術の日程を決めることも可能です。

患者さんに寄り添う、集学的がん治療

当院では高性能の放射線治療装置が2024年12月に導入され、前立腺がんの治療にも使っています。新しい放射線治療装置には、がん周辺の臓器などの正常組織への照射を避けつつ、がんの病巣には強い放射線量を照射ができるIMRT(強度変調放射線治療)やピンポイントで集中的に照射が可能な定位放射線治療の機能があります。画像を見ながら短時間で照射でき、より精度の高い放射線治療が可能になりました。がん細胞を殺傷する能力が高い重粒子線治療が必要と判断される場合には、設備のある他の医療機関をご紹介しています。

近年は、抗がん剤・分子標的薬・免疫療法・遺伝子治療などの薬物療法も進歩しています。将来はロボット支援手術でコンパクトにがんを取り、薬物治療で予後を改善するようになるかもしれません。私たちは患者さんにより良い治療を提供できるよう、常に病気の新しい研究成果を調べ、総合的に治療法を検討しています。

腹腔鏡手術の経験から、ロボット支援手術をスムーズに導入

当院は2013年に、前立腺がんに対する前立腺全摘除術でロボット支援手術を導入し、10年以上の実績があります。泌尿器科ではロボット支援手術を始める前から、腹腔鏡で腎細胞がん・腎盂尿管がん・膀胱がん・前立腺がんの手術を行ってきました。腹腔鏡手術は開腹手術に比べて傷が小さく、回復も早い方法です。しかし、腹腔鏡手術はだれもが実施できる手術ではありません。なかでも前立腺がんに対する腹腔鏡手術は、手術をする医師に高度な技術力と集中力が求められる、難易度が高い方法です。腹腔鏡下前立腺全摘除術ができるほど技術の高い医師は少なく、1日に行える手術数も限られます。

私は前立腺のロボット支援手術が保険適応となる5年ほど前、医療機器の展示会場で手術支援ロボットを試用する機会があり、難しい前立腺がんの腹腔鏡手術の技術的なハードルが格段に下がると感じました。そこで、当院では保険適応された翌年の2013年と早期に、前立腺のロボット支援手術を導入しました。

腹腔鏡手術の時代、前立腺がんの繊細な手術は至難の技でした。前立腺を玉ねぎに例えると、早期の前立腺がんを取るときは、玉ねぎの皮をはがして中身だけ取るように神経を残します。ロボット支援下では腹腔鏡手術より神経が温存しやすくなり、尿失禁をはじめとする術後の合併症の早期回復を図ることができました。外科医が腹腔鏡手術を習得するには、相応の修行が必要です。手術支援ロボットは、エキスパートの技術を身につける時間を短くできるメリットがあります。

前立腺がんの手術に関しては、開腹手術からロボット支援手術へ移行したのがアメリカ式ですが、当院は、開腹手術の次に腹腔鏡手術を行ってからロボット支援手術に移るフランス式の流れでした。腹腔鏡手術の導入の際に、学会の厳しい条件をクリアしていたので、ロボット支援手術にはスムーズに移行できました。

先進的な技術を導入し、地域に安定して医療を提供

私は高校生のころ、宮大工や竹竿づくりの名匠のような職人に憧れていました。師匠の技を見て覚え、自分でこつこつと人生をかけて技術を磨き続ける生き方は、当時の外科医の研修にも通じる姿です。実際、私の修行時代は寝る間も惜しんで学び、さらに先人の方法を改良して成熟させる工夫に夢中でした。

やがて医師として歳月を重ねるうちに、患者さんが増えて夜中まで外来が終わらず、手術する時間が足りなくなる経験をしました。そこで、地域医療に貢献するためには、良好な成績で安定して治療を提供できる病院の体制が重要だと気がついたのです。

医学は日進月歩です。これまでも新しい治療法が現れては次世代の技術に置き換わっていきました。現代はAIが発展し、あらゆる産業でハイテクノロジーを使いこなす時代。私は院長として、当院に来られた患者さんがどなたも安心して治療を受けられるように、ロボット支援手術をといった新しい技術を導入して、病院全体で治療の質の向上に努めたいと考えています。

地域の患者さん、先生方に信頼される病院に

水戸赤十字病院は1923年に開設され、この地で100年を超える歴史があります。茨城県のがん診療指定病院であるほか、地域周産期母子医療センターや第二種感染症指定医療機関に認定されています。また、災害拠点病院でもあり、東日本大震災やコロナ禍では、当院の存在に安心すると多くの患者さんから伺いました。

当院の患者支援センターには「がん相談支援室」があり、病気や治療法、費用に関する悩みまで専門の相談員にお話しいただけます。セカンドオピニオンの相談も可能です。さらに、病状が安定して在宅生活や介護施設に復帰する方にリハビリテーションをはじめとする支援を行う地域包括ケア病棟、末期の方のための緩和ケア病棟があります。

誕生から人生の最期まで、地元でしっかりした治療を受けられる病院として、ロボット支援手術をはじめ、地域の患者さんに信頼していただけるような医療を提供し続けます。

医療関係者の方へ
メッセージ

当院は医師の異動が少なく、地域の先生方と長く連携し、患者さんと信頼関係を築きやすい環境です。患者さんをご紹介いただいた地域の医療機関の先生方には、情報提供書の返書を差し上げ、定期検診で患者さんをフォローアップいたします。地域の先生方とは、地域医療連携室を通したセミナーや講演会で交流する機会がありますので、ぜひお気軽にお声かけください。