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診療科・部門

整形外科特殊外来等について

整形外科の特殊外来等の診療について

当院整形外科で実施している特殊外来等についてお知らせします。

整形外科部長
埜口 博司

反復性肩関節脱臼

スポーツや事故などの外傷で肩関節がはずれ(脱臼)、それが癖になって脱臼を繰り返すようになってしまった状態が反復性肩関節脱臼です。これは、肩関節内の靭帯が剥がれたり伸びたりしてしまった状態が原因です。なかには靭帯が骨ごと剥がれているような場合もあります。ひどくなると、スポーツ中だけでなくなんでもない日常生活や寝ている最中に脱臼してしまうこともあります。

治療法ですが、リハビリを中心とした保存療法と、手術療法があります。

保存療法でのリハビリは肩関節周囲の筋肉の強化を行いますが、急に筋力が何倍にもなるわけではないし、筋力がかなりついたとしてもその筋力以上の力に負けてしまえば脱臼してしまいます。また、寝返りだけ脱臼してしまうような方は、寝ている時は無意識なのでせっかく鍛えた筋力も発揮できずやはり脱臼してしまいます。これは保存療法が原因自体を治していないからです。

根本を治すのが手術療法です。手術療法には、以前から多くの施設で直視下法(大きく皮膚を切る)が行われていますが、当院ではほとんどすべて肩関節鏡視下に手術を行っています。肩関節鏡視下手術は、手術創がほとんど残らず、正常な組織も切らないため、術後の可動域制限が少なくスポーツ復帰率も高いです。

この手術は、小さいスーチャーアンカーを骨に打ち込んで、それについている糸で靭帯や剥がれた骨を固定する方法です (スーチャーアンカーは吸収され消えてしまうので再手術をし抜く必要はありません)。2~3日で退院可能ですが、手を吊るす装具での固定を数週間要します。術後2ヶ月程度で日常生活はだんだんできるようになりますが、完全なスポーツ復帰は修復靭帯が再断裂しない強度となりさらに肩関節の可動域と筋力が完全復帰してからが望ましく6ヶ月位からにしてもらっています。ただし、ハイレベルまたはコンタクトスポーツへの復帰はさらに3か月程度を要します。

腱板断裂と五十肩

どちらも、40~50才以上で肩が痛く挙げにくいという特徴が似ているため、残念なことに整形外科にかかってもきちんと診断されないことが未だに多いという残念な現状があります。

五十肩とは、肩が凍ってしまったかのようになり、他人に動かしてもらっても肩をあげたり回したりがあまりできない状態で、別名凍結肩とも言います。五十肩ははっきりとした誘因がなく発症することも多いのですが、数ヶ月から1、2年ぐらいに自然に治ってしまう場合も多いです。昔は人生50年と言われたこともあったので、江戸時代には五十肩は長寿病と喜ばれてさえいたようです。しかし現代に至ってはそんなことも言ってはいられず、そんなに長く放ってはおけないという方も多く、飲み薬、湿布、軟膏、注射、リハビリ、授動術などで治療します。治りにくい場合や、早く治ることを希望する方には肩関節鏡視下授動術も行なっています。この手術は、内視鏡で固くなった部分を切り動きをよくするという方法です。

いっぽう、肩関節は外側をアウターマッスル、内側をインナーマッスルの筋肉で覆われています。インナーマッスルは4つありこれらの骨につく部分が腱板というすじ(腱)の集合体となります(図1)。これが切れてしまうのが腱板断裂です(図2)。転倒して手をついたり、肩を直接ぶつけたり、重いものを持ち上げるとかの外傷が原因の場合とすじの老化で自然に切れてしまう場合があります。

痛みがないときもありますが、痛い場合は、飲み薬や注射、湿布などで痛みをある程度和らげることは可能な場合もあります。しかし、切れたすじは自然には治りはしません。症状が強い場合、日常生活や仕事などで困るような場合、夜の痛みが強い場合、比較的若く外傷が原因の場合、そして患者さんが完全に治るのを希望する場合などに手術療法を行います。

反復性肩関節脱臼の場合と同様に直視下手術と肩関節鏡視下手術がありますが、当院ではほとんどすべての方に肩関節鏡視下に手術(肩関節鏡視下腱板修復術)を行っています。直視下手術は、全く損傷のないアウターマッスルをある程度切らないと手術ができないのに対して、肩関節鏡視下腱板修復術はアウターマッスルをほとんど傷つけずインナーマッスルである腱板を治せることが最大の利点で、手術のキズもほとんど目立たず、術後の痛みも直視下手術より少ないことなど優れたことが多いです。

術後は、装具での固定を数週間要します。手術翌日に歩行は可能ですが、術直後に着替えなどの際に自力で手を挙げるような自動運動を強くおこなってしまうと腱板を縫った糸が切れてしまう恐れがあるので、適切な術後のリハビリを覚えていただくため、抜糸後何日かくらい (すなわち術後3週程度)まで入院してもらっていたほうが安全と考えています。

術後2~3ヶ月程度で日常生活はだんだんできるようになりますが、手を結構使う仕事やスポーツへの完全復帰は6ヶ月位からにしてもらっています。重労働への復帰はさらに3か月程度を要します。

図1

図2

当院で手術をお受けになりたいと思われる方へ

茨城県内で肩の手術を行なっている施設は少ないのですが、当院では、腱板断裂で広範囲で普通には修復不能のものに対しても関節鏡視下にパッチ(つぎはぎ)を用いた修復を行なっています(図3)(症例によってはそれも不可能な場合もありますが)。

広範囲腱板断裂を含めた上記3疾患全ての疾患をほとんどすべて肩関節鏡視下に手術しているのは今のところ当院のみです。昨年度の年間肩関節関連手術件数は100例程度です。

また、筑波大学次世代医療研究開発・教育統合センター医学技術ラボラトリーでは、肩関節鏡のバーチャルリアリティーを用いたトレーニングマシーンを導入しています。埜口博司医師は、筑波大学准教授坂根正孝医師と共同でこのトレーニングマシーンによる肩関節鏡教育の有効性に関する研究を行なっております。

手術には助手が必要ですが、バーチャルリアリティートレーニングマシーンによる肩関節鏡教育の研究の被検者の筑波大学病院の医師が助手として入ることもあります。もちろん執刀は埜口博司医師が行いますが、研究にご協力いただければ幸いです。

なお、ご協力の可否による手術への影響は全くございませんのでご安心ください。(ご協力いただけない場合、手術をこちらから拒否するということも当然ございません。)

【Before】
広範囲腱板断裂
図3

【After】
肩関節鏡視下腱板修復 術後
(Patch)